京都市中心部の四条通では「四条通歩道拡幅工事」と称した工事が行われています。日本の都市では珍しい繁華街での歩道拡幅・車線縮小であり、かなり興味深い計画です。
以前からこのテーマについて記事にしようと少しずつ下書きをしていたのですが、はてな匿名ダイアリーで京都市の交通行政の話題が盛り上がっていたこともあり、一気にまとめてしまいました。
京都に住んでいる感覚を交えながら、四条通の歩道拡幅工事と、京都市の交通行政について、少しまじめに書いてみたいと思います。長文ですが、よろしければお付き合いください。
なお、私は主に徒歩か電車を利用し、車はほぼ使用せず、たまに市バスを利用する程度です。その人の立場によって感じ方が変わる問題だと思いますので、この点をご承知おきの上お読みください。
四条通歩道拡幅工事の概要
京都に住んでいる方はもちろんご存知かと思いますが、最近たまにニュースで報道されていたりするので、直接関係のない方もご存知かもしれません。
まず、この工事の整備内容から見ていきましょう。
(1)歩道の拡幅
(2)テラス型バス停の設置
- 駐停車車両によりほとんど機能していない歩道側車線のスペースを活用し,歩道を拡幅します。
(3)沿道アクセススペース(車両の停車スペース)
- バス停が車道側に張り出したテラス型バス停を導入します。
- 現在16箇所あるバス停を四条河原町と四条高倉の4箇所(西行き2箇所,東行き2箇所)に集約し,テラス型バス停を設置します。
- バス停の延長は,四条河原町西行き,四条高倉西行き,東行きはともにバス約3台分の36mとします。四条河原町の東行きは他のバス停と比較して,停車台数が少ないため,28mとします。
(4)タクシー乗り場
- 四条通を訪れる方や,物流車両が沿道にアクセスする際に,車を一時的に停車できるスペースを設置します。(15箇所32台分)
- 沿道アクセススペースは,現在の沿道アクセスの状況を踏まえ,原則として細街路間ごとに設置します。(ただし,構造上,一部設置できない区間があります。)
- 需要の多い大丸前と髙島屋前の2箇所に客待ちが可能なタクシー乗り場を設置します。(タクシーの乗降については,沿道アクセススペースも利用可能。)
- 停車可能台数は,大丸前が3台分,髙島屋前が4台分です。
簡単にまとめると、この計画は近年観光客の増加などで混み合う四条通(烏丸通ー川端通間1.1キロ)の歩道を拡張(最大2倍超)し、京都市の「歩くまち京都」のスローガンのもと、歩行者にやさしい道路・繁華街にしようという趣旨です。
歩行者が優先されるかわりに、これまで片側2車線あった道路は片側1車線に削減されるため(タクシー乗り場、荷さばき場などは別途確保)、渋滞の悪化や自動車が不便になることが懸念されます。
工事完成後のイメージ 京都市広報資料より
四条通とは
まず、工事の舞台となる四条通がどのような場所なのか見ておきたいと思います。四条通は、京都市中心部を通る道路であり、京都を代表する繁華街です。土日を中心に多くの地元客・観光客が訪れ賑わっています。また毎年7月に行われる祇園祭では歩行者天国となり、ものすごい人混みとなります。
そして、そのまま東へまっすぐ進むと、鴨川を渡り、祇園・八坂神社へ突き当たることになります。
そもそも渋滞の多い京都市
京都市中心部は、もともと自動車に向いた地域ではありません。
平安京が建設されてから1200年を経て、街の構造はかなり変化してきました。それでも道路について見ると、当時のままではないにしろ市街地の多くの場所では碁盤の目に沿った大小の道が存在しています。
特に、第二次世界大戦で空襲による被害を受けなかったことから、自動車が多くない時代の市街地の構造がそのまま現代まで続いているため、自動車が入りにくいor入れない狭い道も多く残っています。これは幹線道路であっても例外ではなく、第二次世界大戦中に空襲による延焼を防ぐための防火帯をつくるために家屋の立ち退きが行われた五条通・堀川通・御池通など一部の通りを除いて、車線・道幅がそれほど広くありません。
五条通と堀川通の交差点 photo by MShades
加えて近年では観光客が増加の一途をたどり、特に観光シーズンともなると、車やバスを降りて歩いたほうがはるかに早いレベルの渋滞があちこちで発生します。最近はパーク・アンド・ライドによる公共交通機関の使用が推奨されたりしていますが、なかなか改善には繋がっていないようです。
そんな中、この計画が実行されることになったのですが、実際どういった変化が起こっているのか見ていきます。
歩道拡幅工事のポイント
ポイント1:大幅に広がる歩道
まずこの計画最大の目的でありメリットは、四条通の歩道が大幅に広がることです。
今回の工事が行われるまでの歩道の混雑っぷりを表現すると、急いでいるときに四条通を早く進もうとしても、狭い歩道をゆっくりウィンドウショッピングする人と反対側から同じように進んでくる人に阻まれ、けっきょく人波をかき分けながら進むしかないという感じでした。
工事が行われ、歩道が拡幅された今、休日であっても本当に歩きやすくなりました。今では横に3人並んで歩いている人がいても、余裕をもって抜いていくことができるほどです。これは本当に歩行者に優しく素晴らしいです。
このメリットだけを考えると、この計画は大成功に思えます。
ポイント2:片側1車線になる車道
何事もメリットがあればデメリットもあります。
歩道が広がるということは、当然狭くなる部分もあるわけで、四条通のように開発し尽くされた市街地においては、車道が犠牲となることになります。
歩道が2倍に広がるのと反対に、これまでの片側2車線の道路が、その半分の1車線になります。市街地の中心部でなかなか大胆な施策だと思いませんか?
道幅変更のイメージ 京都市広報資料より
四条通の計画対象区間は、工事が行われる前でもタクシーやバス、業務用車両や他府県ナンバーの車で割と渋滞気味でした。地元の人で、わざわざ用もないのに四条通を抜けようと考える人はあまりいなかったのではないでしょうか。
単純に考えると、車線が半分になれば通れる車の量も半分になるわけで、クルマに乗る人、特にタクシー業界などはこの計画に大反対だったようです。(ここ1年に乗ったタクシーの運転手さんからは、ほぼ全員この愚痴を聞きました(笑))
ですが、個人的には「まぁ大丈夫ちゃうの?」と考えていました。もともと2車線のうち歩道側の1車線は、ほぼタクシーや駐車車両、停留所で乗り降りのために停車するバスなどで埋まっており、実質走行できるのは1車線という感じだったからです。私がほぼ車に乗らず、この辺をよく歩くからという理由もあります。
ポイント3:道路にせり出すバス停
最後に、バス停が道路にせり出しているという構造についてです。
通常のバス停は、乗り降りの間停車するバスが交通の妨げとならないように、走行車線から外れた場所に乗り降りのためのスペースを設けています。しかし今回の計画では、車道が削減される部分にある2つのバス停で、なんとバス停部分だけ他の場所よりも歩道がせり出すという、「逆の形状」をしています。
バス停のイメージ 京都市広報資料より
つまり、バスが乗り降りのために停車している間、後続の車は追い抜かすこともできず乗り降りが終わるのをただ待つしかないのです!(実際は、対向車線が空いているタイミングに、対向車線に乗り出して追い越していくことがあります。)
とにかく、この構造は日本の道路ではかなり画期的ではないでしょうか。
工事中の四条通のようす
それでは、現在歩道拡幅・車線縮小工事がほぼ完了した四条通を見てみましょう。
バスの乗降待ちで渋滞する一般車両
荷下ろし用スペース
タクシー乗り場
四条通商店街による広告
2014年11月にはじまった工事は、2015年7月現在半分以上が終了しています。おおよその歩道拡幅・車道縮小工事は完了し、これから舗装・整備・関連設備の設置などが行われていく段階だと思われます。2015年10月末には工事が完了する予定だそうです。
京都市の交通行政について思うこと
個人的にはこの計画、当初は「繁華街の道路が片道1車線ってなんか見た目のスケールが小さくなるなー」などと思いつつも、計画自体はおおむね賛成でした。そして工事完了後の姿がすこしずつ現れてくると、歩道が広がって歩きやすくなったことが本当に快適で、なんて画期的で効果的な計画!と、大賛成になったのでした。
が、人によって感じ方は色々のようで、こういった意見もでていたのでした。
個人的にも、京都市の交通行政が必ずしも優れているとは思いません。古くは京都市電の廃止や、地下鉄東西線という必要があったのか分からない路線の建設、市バスの運転の荒さやほぼ意味をなさない市バス時刻表など、文句を言いたい部分も多くあります。
ただ、以前の地下鉄東西線での膨大な建設費計上と、毎年赤字を垂れ流していた地下鉄・市バスの状態から比べれば経営感覚が感じられるようになってきた最近の地下鉄の乗車数改善の取り組みや、今回の大胆な歩道拡幅工事の実行など、ここ数年は幾分マシになってきつつあると思います。
かねてより京都市が掲げてきた「歩くまち京都」というビジョン達成にも、メインストリートの歩道拡幅・車中心からの転換は必要不可欠なことでしょう。
もっとも、京都市も四条通の車線を減らす時点で、一般車両(バス・タクシー・四条通で荷下ろしをするひつようのある業務用車両以外)の通行を禁止するくらいの政策を打ち出しても良かったように思います(法律上可能なのかわかりませんが)。
いずれにしても、四条通の車道が以前より混雑していることは間違いないと思います。四条通が混雑するということが、市の広報や関係機関の協力、観光ガイドブックへの掲載や口コミなどで広く認知され、ほとんどの必要性のない車両が四条通を迂回するようになることを願いたいと思います。
そういうわけで、個人的には、四条通の渋滞悪化というデメリットを受け入れてでも、今回の歩道拡幅は意味があることだと考えます。
余談:東大路通の歩道拡幅について
こちらは、工事による四条通の混雑具合をみて、工事着手を一時見送るようです。
個人的に東大路通の歩道拡幅・車線減少は現状不可能だと思います。東大路通は四条通のように並行する広い道路がなく迂回ができないこと、また四条通よりも住民の生活道路としての位置付けも強い上、現在ですら観光シーズンの渋滞っぷりが限界を超えているためです。